いきもの日記【8】いきものの脱走
その日帰宅すると、いきものは赤いガーベラの真ん中にいた。
その姿を確認後、私は食事をする。
私もいきものも、
生命維持のために食事をする必要があるのは変わらない。
30分ほどたっただろうか、赤いガーベラを見ると、いきものの姿はなかった。
中心部にぽっかり穴が空いている…
いきものが逃げた。
ガーベラの周りを探すが、見当たらない。
30分、ちょっと目を離しただけなのに…
いきものは、いつのまにこんなに俊敏に移動できるようになったのだろうか。
周りを探したのに、いなかった。
私は諦めて、違うことを始めた。
しばらくすると、リビングの床の上で、
緑色の何かが動いている。
よく見ると、いきものだった。
私の家の床を、元気よく移動していた。
ちょっと引いてしまった…
でもよく見ると可愛かった。
(記念に撮影した動画は、スマホに保管してある)
数本の足を動かして進んでいる。
秒速30mmほどだろうか。意外と早く動けるらしい。
いつのまに、こんなに動けるようになったのだろうか。
このまま床にいられると潰してしまいそうなので、ガーベラに戻しておいた。
ガーベラを食べたり、近くの花の茎をよじ登ったりしている。
数日前、たった2本だったガーベラの花は、すでに6本になっていた。
(いきもののために追加購入)
最初にいきものが存在していたガーベラを近づけてみる。
すると、スルスルと奥に進んでいった。
体を一生懸命動かして、食事をしている。
この花が1番好きなようだ。
黄色と赤のガーベラは途中で食べるのをやめたのに、これだけはずっと食べている。
もう枯れてボロボロなのに。
私がこのいきものを最初に発見したのは、他でもない、このオレンジのガーベラの上だった。
このいきものは、ここで卵から孵ったのかもしれない。
もしかすると、卵を産んだ"おかあさん"の匂いがするのかもしれない。
いきものは、この花から出てこなかった。
生きているか確認するために刺激すると、ときどきモフモフとガーベラが揺らぐ。
あまり突っつくとかわいそうなので、そのまましておくことにした。
それでその日はおやすみを言った。
もしこのいきものが自分の最期のときを自覚しているとしたら、
このガーベラの中で迎えるかもしれないな、と思った。
生物にとって
"最初に食べた花・最初に嗅いだ花の匂い"
は
特別な意味を持つのだと思う。
毎晩、夜になるとドキドキする。
いきものは明日も私の目の前に姿を表してくれるのか。
私のおはように、緑色の体をユサユサ振りながら返事をしてくれるのだろうか、と。